なぜ、下の子は上の子の真似ばかりするのか?―モデリングという学習行動と、兄弟関係における心理について―

心理

はじめに

「また下の子がお兄ちゃんの真似してる…」 子育て中の親なら、このような場面を何度も目にしているのではないでしょうか。下の子が上の子の言動を真似る行動は、多くの家庭で見られる現象です。時には可愛らしく感じられるものの、時には困った行動まで真似してしまい、親を悩ませることもあります。

この記事では、下の子が上の子を真似る理由について、心理学的な観点から詳しく解説していきます。特に、アルバート・バンデューラが提唱した「モデリング」という学習理論と、兄弟関係における心理的メカニズムを中心に、この現象の背景にある科学的根拠をお伝えします。

モデリング理論とは何か?

バンデューラの社会的学習理論

下の子が上の子を真似る現象を理解するためには、まず心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した「観察学習(モデリング)」という理論について知る必要があります。バンデューラのモデリング(観察学習)とは、個人が他者の行動を観察し、その行動を模倣することで学習するプロセスです。この理論はアルバート・バンデューラによって提唱され、社会的学習理論の一部を形成しています。

社会的学習理論(モデリング理論)とは、自分が直接体験した事柄ではなくても、他者の体験を観察・模倣すること(=モデリング)で学習できることを説いた理論です。カナダ出身の心理学者で「自己効力感」を提唱したことでも知られるアルバート・バンデューラ氏によって、1970年代に確立されました。

この理論は、それまでの学習理論に革命をもたらしました。従来の行動主義心理学では、学習は個人が直接的に体験し、報酬や罰を受けることによって成立すると考えられていました。しかし、バンデューラは人間が他者を観察するだけで学習できることを実証し、学習の概念を大きく拡張したのです。

モデリングの4つのプロセス

バンデューラは、観察学習が成立するためには4つの過程が必要であると述べています:学習者はモデル(他者)の行動に注意を向ける必要があります。観察した行動を記憶し、その後模倣できるようにするためには、学習者はその行動を心の中に保持する必要があります。以下に詳しく説明します。

1. 注意過程 モデルの行動に注意する過程(例:先輩の電話応対の仕方に関心を寄せる)です。兄弟の場合、下の子は自然と上の子の行動に注目します。上の子は下の子にとって最も身近で、頻繁に接触する「モデル」となるのです。

2. 保持過程 観察したモデルの行動を記憶する過程(例:先輩の電話応対の仕方を記憶する)です。下の子は上の子の行動を記憶し、内的に表象として保存します。

3. 運動再生過程 記憶したモデルの行動を実際におこなう過程(例:先輩の電話応対の仕方を真似てみる)です。下の子は記憶した行動を実際に試してみます。

4. 動機づけ過程 行動によりポジティブな経験を得て、モチベーションが向上する過程(例:先輩のような電話の受け答えができて嬉しい・モチベーションが上がる)です。真似をすることで良い結果が得られれば、その行動は強化されます。

下の子が上の子を真似する理由

身近なロールモデルとしての上の子

兄弟姉妹のうち、上の子どもよりも下の子どもの方が発達の早いケースが多いのも、下の子が上の子を真似することが影響していると考えられています。これは偶然ではありません。下の子にとって、上の子は最も身近で観察しやすいロールモデルなのです。

上の子は下の子よりも先に様々なスキルを習得しており、下の子から見ると「憧れの存在」として映ります。何かに挑戦する時の動機は、大人でも「かっこいいな」とか「すてきだな」といった憧れを伴うものです。子どもが「真似したい」と思う動機も同様で、真似したい相手に対して憧れの感情が必要です。

学習効率の向上

人間はまた、行動が直接強化されなくても多くの事を学習することが出来る。例えば弟や妹が兄や姉の行動をまねたり、成人であっても初めて何かをやろうとする時など、熟練者の動きなどを観察し模倣したりもする。

下の子が上の子を真似ることで、通常よりも短時間で多くのスキルを習得できます。親が一から教える必要がなく、上の子の行動を観察するだけで、言語、運動能力、社会的なルールなどを学ぶことができるのです。

意味の理解への欲求

欧米の研究によると、乳幼児は、大人の行動に対して、なぜその行動をとるのか理由がわからない場合に、真似をするそうです。簡単にいうと、今までの自分の経験からすると、その行動はちょっと意味がわからないな〜と思う時です。

この研究結果は興味深い事実を示しています。どんな背景があって相手がその行動をしているのか、自らが経験することで学ぼうとしているんですね。つまり、下の子は単純に真似をしているのではなく、上の子の行動の意味や目的を理解しようとして真似をしているのです。

兄弟関係における心理的メカニズム

兄弟構成による性格への影響

兄弟構成によって親の接し方、育て方も変わってくるでしょう。また、上の子・真ん中の子・下の子という役割やポジションが子どもの行動を変え、性格を作っていくといえるのです。

兄弟構成は子どもの性格形成に大きな影響を与えます。下の子の特徴として、一般的に以下のような傾向が見られます:

二人兄弟姉妹の下の子にみられやすい特徴●快活で活動的●おしゃべり●甘えん坊●告げ口をする●強情●依存的●やきもちやき

これらの特徴は、下の子が上の子を真似る行動とも密接に関係しています。快活で活動的な性格は、積極的に上の子の行動を観察し、模倣することに繋がります。

上の子からの学習

下の子は上の子から多くの事を学びます。親が教えなくても、上の子との遊びの中で三輪車に乗れるようになったり、鉄棒ができるようになったりします。下品な言葉やいたずらといった悪いことまで、しっかりと兄弟姉妹から教わるのです。

このように、下の子は上の子から良いことも悪いことも含めて幅広く学習します。これは親にとって嬉しい面もあれば、困った面もある現象と言えるでしょう。

代理強化の効果

観察された結果(代理強化)によって行動が制御されると考えます。他者が強化された(賞罰を受ける)ことを観察した際にも、代理強化(vicarious reinforcement)と呼ばれるプロセスを経て学習が起こるとします。

下の子は上の子が褒められたり叱られたりする様子を観察することで、どの行動が良いのか悪いのかを学習します。直接的に体験しなくても、上の子への反応を見ることで行動の善悪を判断できるようになるのです。

真似による発達への影響

認知的発達の促進

子どもは、目的や理由が完全に理解できなくても、真似を通じて道具や行動の意味を学ぼうとしています。「真似る」ことは、「学ぶこと」ともいわれますが、まさにその通りです。

真似をすることは、単なる模倣以上の意味を持ちます。それは理解への第一歩であり、認知的発達を促進する重要なプロセスなのです。

社会性の発達

子どもが真似をするためには、その子の発達状況に合わせた「真似できそうな手本」を見せることが必要です。「自分にも簡単にできそう」「ちょっと頑張ってみよう」と思うレベルでないと、はじめから諦めてしまいます。

上の子は下の子にとって適切なレベルの手本となることが多く、社会性の発達にも大きく貢献します。上の子を通じて、人間関係の築き方や社会的なルールを学んでいくのです。

親が知っておくべきこと

真似を促進する条件

日頃からよく真似する子どもであっても、決して誰に対しても真似をするわけではなく、自分に好意的でない相手の真似はしないものです。真似をする時には、相手が自分に普段から好意的で、自分に心を開いているかどうか、という事を子どもながら感じ取っていると言われています。

つまり、良好な兄弟関係があることが、効果的な真似による学習の前提条件となります。親は兄弟間の関係性を良好に保つよう配慮する必要があります。

上の子への配慮

長男長女はただでさえ我慢することが多い立場なので、弱音を吐いたり甘えられる環境を用意してあげることも必要なんだそう。親は、「お兄(姉)ちゃんなんだから○○しなさい」と言い過ぎないようにして、気持ちに共感してあげることが大事だそうです。

上の子は下の子の手本となる重要な役割を担っていますが、それは同時に大きな負担でもあります。親は上の子の気持ちを理解し、適切にサポートすることが大切です。

兄弟関係の健全な発達

兄弟姉妹同士で喧嘩が始まると、親はつい干渉してしまいがちです。しかし、兄弟姉妹の喧嘩というものはそんなに悪いものではありません。上の子は下の子に対して手加減を覚えますし、下の子は負けると分かっていても挑むという精神力を養っていきます。

適度な競争や葛藤は、兄弟の健全な発達に必要な要素でもあります。親は過度に介入せず、子どもたち同士で学び合える環境を提供することが重要です。

注意すべき点

悪い行動の模倣

モデリング理論は良い行動だけでなく、悪い行動も学習されることを示しています。社会的学習理論による学習は、良い行動だけでなく、悪い行動も学習されてしまうのです。

親は上の子の行動が下の子に与える影響を常に意識し、良いモデルとなるよう上の子をサポートする必要があります。

個性の尊重

真似をすることは自然で重要な学習プロセスですが、下の子の個性や独自性も大切にする必要があります。過度に上の子と比較したり、同じような行動を強要したりすることは避けるべきです。

まとめ

下の子が上の子を真似る現象は、バンデューラの社会的学習理論で説明できる自然で重要な学習プロセスです。この真似という行動を通じて、下の子は効率的に様々なスキルを習得し、認知的・社会的発達を遂げていきます。

親としては、この現象を理解し、兄弟関係が健全に発達するよう適切にサポートすることが大切です。上の子への配慮を忘れず、下の子の個性も尊重しながら、真似による学習を前向きに捉えることで、兄弟がともに成長できる環境を作ることができるでしょう。

「また真似してる」と感じたときは、それが子どもの成長の証であり、兄弟の絆を深める大切なプロセスであることを思い出してください。適切な理解と対応により、この自然な学習行動を子どもたちの健全な発達に活かしていくことができるのです。

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