はじめに:なぜ子どもは失敗を恐れるのか?
「テストで間違えるのが怖い」「新しいことにチャレンジできない」「失敗したらどうしよう…」
このような言葉を子どもから聞いたことはありませんか?近年、失敗を過度に恐れる子どもが増えています。完璧主義的な傾向や周囲との比較、そして大人からの期待が、子どもたちから挑戦する勇気を奪ってしまっているのです。
そんな時に役立つのが「リフレーミング」という心理学的技法です。この記事では、失敗を恐れる子どもが自信を取り戻すための「魔法」ともいえるリフレーミングについて、詳しく解説していきます。
リフレーミングとは?基本的な仕組みを理解しよう
リフレーミングの定義
リフレーミングは、「リ(再び)フレーム(枠組み)」という名前の通り、背景や前提を見直し、捉え方をガラリと変えていく、心理学NLPのスキルの一つです。
簡単に言えば、物事を見る枠組みを変え、違う視点で捉えてポジティブに解釈する状態になることです。
水が半分入ったコップの例
リフレーミングを説明する際によく使われるのが、コップの水の例です。
例えば「コップに入った半分の水」があったとして、「半分もある」と捉えるのか、「半分しかない」と捉えるのかでは、同じ水の量でも感じ方が変わります。
「水が半分しかない」という不満や不足を感じる枠組みと、「水が半分もある」という満足や喜びを感じる枠組みがあります。どちらが幸せで満足感があるかと言えば、後者ですよね。
リフレーミングの心理学的背景
リフレーミングは、コミュニケーション心理学(NLP)の用語のひとつ。コミュニケーション心理学(NLP)は、1970年代にカリフォルニア大学在籍中のリチャード・バンドラーとジョン・グリンダーが行った「天才セラピスト3人を分析」から始まりました。
別名「脳の取り扱い説明書」ともいわれ、「目標の実現」「悩みの解決」「思考や行動」「感情のコントロール」「人間関係の構築や修復」などで幅広く活用されています。
リフレーミングが子どもに与える効果
1. 自己肯定感の向上
リフレーミングによって、子どもが自身や他者をポジティブに受け入れられるようになる効果が期待できます。
リフレーミングは子どもの「自己肯定感」を育てるのにも有効です。自己肯定感を育むのには、自分への見方を肯定的に捉えることが重要です。リフレーミングを活用すれば、一見、短所に思えるようなことでも長所に変換することができます。
2. 挑戦意欲の回復
親がリフレーミングをして、子どもに伝えることで、子どもは失敗を恐れずに挑戦できるようになる傾向があります。
失敗への恐怖が和らぐことで、子どもは新しいことにチャレンジする勇気を取り戻すことができます。
3. 多様性を認める視点の育成
これからの時代を生きる子どもたちには、多様性を認め合う視点を育てることが大切だといわれています。リフレーミングは物事を多様な視点から捉える方法であり、子どもたちにぜひ身に付けてほしい考え方だといえます。
4. レジリエンス(折れない心)の育成
幸福度が世界屈指の高さを誇るデンマークでは、子どもが幼いうちからリフレーミングを教える伝統があります。リフレーミングを幼児期に習得することで、ものごとのよい面も悪い面も踏まえたうえで全体像に意識を向けられ、他人の悪い面ではなく、よい面に焦点を当てることを選ぶようになるのです。
リフレーミングの2つの種類
1. 状況のリフレーミング
状況のリフレーミングとは、人の能力や物の性質について、それが発揮される場所や環境について考えることです。
例:
- 「おしゃべりばかりして授業に集中できない」→「発表が得意で、コミュニケーション能力が高い」
- 「一人でいることが多い」→「集中力があり、一人でも物事を成し遂げられる」
2. 内容のリフレーミング
内容をリフレーミングする質問とは「この出来事には他にどのような意味があるのか」を考えさせる質問です。例として「このことは他のどのようなことに役立つか?」などの質問が挙げられます。
例:
- けがをした子どもに「けがをして気付いたことはある?」と問いかけると、「フォローしてくれる周囲の人のやさしさに気付いた」「けがを防止することの大切さに気付いた」などの気づきを得られる
具体的なリフレーミング例:短所を長所に変換
よくある子どもの特徴とリフレーミング例
ネガティブな見方リフレーミング後飽きっぽい好奇心旺盛、素直・従順、環境になじみやすい慎重すぎる思慮深い、周囲に気を配れる、危機管理能力が高いおっちょこちょいおおらか、こだわらない、寛大気が弱い控えめ、優しい、人を大切にできるすぐにカッとなる情熱的、感受性豊か、正義感が強いマイペース周囲に流されず自分というものを持っている頑固粘り強い、信念がある、一貫性がある内気慎重で思慮深い、観察力がある
短所と長所は表裏一体。見方を変えるだけで、短所は長所にもなり得るのです。
発達段階に応じたリフレーミングの実践方法
幼児期(3-6歳)のリフレーミング
幼児期の特徴として、親の言うことをなんでもイヤという「イヤイヤ期」や、なんでも親に質問する「ナゼナゼ期(質問期)」があります。また、この時期には、自律心が育まれます。そのため様々なことに挑戦をして、失敗を経験することで、言葉を覚えたり、歩いたりなど、できることが増えていくのです。
実践例:
- 失敗した時:「そんなこともできないのか」→「チャレンジしてくれてありがとう。次はもっと上手にできるよ」
- 片付けができない時:「使い終わったものを片付けてから次のおもちゃで遊ぶと、もっと広い場所で遊べるようになるよ」
学童期(6-12歳)のリフレーミング
学童期は、子どもが小学生の時期のことを指します。この時期は、家だけでなく学校というコミュニティに属します。その中で、徐々に善悪の判断ができるようになり、集団意識が芽生えます。しかし、発達の個人差が大きく出てくるのもこの時期で、周りと自分を比べて、自己肯定感が高まったり、逆に自尊感情が低下したりすることも起こります。
実践例:
- テストの点が悪かった時:「この問題は、君にとって新しい学びのチャンスだね」
- 友達との関係で悩む時:「相手の気持ちを考えられる優しい子だからこそ、悩むんだね」
思春期(13-18歳)のリフレーミング
感受性の強い思春期の子どもは、親のほめ言葉なども素直に受け取れない上に、体の急激な変化への戸惑い、進路や人間関係での悩み、自己否定や劣等感などに直面し、心身共に不安定になりやすい時期にあります。
この時期は、子ども自身がリフレーミングを学び、自分で自分を励ませるようになることが大切です。
実際の声かけ例:シーン別リフレーミング
失敗した時の声かけ
従来の声かけ: 「なんで失敗したの?」「もっと注意して」
リフレーミング後の声かけ:
- 「チャレンジしたからこその経験だね」
- 「失敗から学べることがあるよ」
- 「今度はどうしたらうまくいくと思う?」
チャレンジを避ける時の声かけ
従来の声かけ: 「なんでやらないの?」「やってみなさい」
リフレーミング後の声かけ:
- 「慎重に考えているんだね」
- 「準備をしっかりしてからやりたいんだね」
- 「どんな準備があったら安心してできるかな?」
他の子と比較して落ち込む時の声かけ
従来の声かけ: 「他の子と比べちゃダメ」「あなたも頑張りなさい」
リフレーミング後の声かけ:
- 「あなたには、あなただけの素晴らしいところがあるよ」
- 「他の子の良いところに気づけるのは、観察力があるからだね」
- 「それぞれ違っていて、それが面白いんだよ」
成功事例:リフレーミングの効果を実感
事例1:サッカーのシュートを外した小学3年生
「サッカーのシュートを外した時とか」「なるほど!その時は、失敗したとは思わなかったの?」「え?それは、ナイス!なんだよ」「ナイス?」「そう!外したら、『ナイスチャレンジ!』ってお父さんが言ってくれる」「へぇ!じゃあ、シュートが決まったら?」「それは、ナイスシュート!でしょ」「だよね?どっちもナイスなんだ」「そう!シュートは打たないと決められないから、外してもナイス!外すことの方が多いから、決まった時はもっと嬉しい!」
この事例では、お父さんの日頃からのリフレーミングによって、子どもが「失敗」という概念を持たずに成長していることがわかります。
事例2:けがをした子どもへの質問
けがをした子どもに「けがをして気付いたことはある?」と大人が問いかけた場合、子どもは「フォローしてくれる周囲の人のやさしさに気付いた」「けがを防止することの大切さに気付いた」などと、けがをしたことによって得たものを自認できるでしょう。
リフレーミングを実践する際の注意点
1. 事実を否定してはいけない
リフレーミングは事実の解釈を変えるもので、事実の否定はしません。事実は認めつつ、「貴重な経験になった」「勉強になった」といい面を見いだしていきます。
2. 適切なタイミングを選ぶ
深刻な問題や悲しみの最中にいる人に対して、すぐにリフレーミングを提案することは適切ではありません。まずは相手の気持ちに寄り添い、受け入れる姿勢を示すことが重要です。
3. 相手への配慮を忘れない
他人にリフレーミングを提案する際は、相手の感情を十分に理解し、共感を示してから行うことが大切です。一方的にポジティブな解釈を押し付けることは避けましょう。
4. 無理やりポジティブにしない
リフレーミング後の意味が変わってしまっているように感じたり、「ポジティブに考えろ」と言われているような気がして落ち込んだりしてしまいかねないからです。対話の中でリフレーミングし、新たな枠組みに気づくために欠かせないのは、相手への共感と理解です。
リフレーミングカードを作って楽しく実践
リフレーミングカードとは
リフレーミングを毎日の生活に取り入れるには、一度だけ例を読んで行うだけよりもリフレーミングカードを作成したほうが効果的。無理なくリフレーミングする癖をつけることができます。表にリフレーミング前、裏にリフレーミング後が書かれたカードです。
活用方法
- ゲーム感覚で学ぶ:子どもと一緒にカードを使ってゲーム感覚で学ぶ
- 日常の参考に:気になる特徴をカード化して、日常的に見られる場所に置く
- 家族で共有:家族みんなでリフレーミングの視点を共有する
自分でリフレーミングできる子どもを育てる「7つの問いかけ」
子どもが大きくなってきた今度は、親がいてもいなくても、誰がほめてもほめなくても、同様に、「子ども自身が自分でリフレーミングし、自分を応援できたらいいのではないか」
子ども自身ができるリフレーミングの質問
- 「この経験から何を学べるかな?」
- 「他の人だったらどう考えるかな?」
- 「この状況で良かったことは何だろう?」
- 「これがきっかけで新しくできるようになったことはある?」
- 「将来この経験がどう役に立つかな?」
- 「この特徴が役に立つ場面はどんな時だろう?」
- 「自分の良いところを3つ見つけてみよう」
まとめ:リフレーミングで子どもの未来を変える
リフレーミングは、失敗を恐れる子どもに自信を取り戻させる「魔法」のような技法です。しかし、それは決して魔法ではなく、心理学に基づいた科学的なアプローチです。
リフレーミングの効果まとめ:
- 自己肯定感の向上
- 挑戦意欲の回復
- 多様性を認める視点の育成
- レジリエンス(折れない心)の強化
- 柔軟な思考力の養成
大切なのは、日常の声がけが子どものセルフイメージを作ります。子供の自己肯定感は10歳をピークに下がっていくと言われているので、常日頃から子供に前向きな言葉がけをして、自己肯定感を育むとよいでしょう。
リフレーミングは一朝一夕で身につくものではありませんが、日々の積み重ねによって、子どもは自分自身を肯定的に捉え、失敗を恐れずにチャレンジできる人に成長していきます。
親や教育者が適切にリフレーミングを実践することで、子どもたちは自分の可能性を信じ、困難に立ち向かう勇気を持つことができるのです。
今日から、あなたも子どもへの声かけにリフレーミングを取り入れてみませんか?それが、子どもの人生を大きく変える第一歩になるかもしれません。
参考:本記事は心理学NLP、認知行動療法、教育心理学の研究および実践例を基に作成しています。
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