自己肯定感が高い子と低い子、10年後の「幸福度」はどう違う?

教育

はじめに:日本の子どもの自己肯定感の現状

近年、教育現場や子育て支援の場で「自己肯定感」という言葉を耳にする機会が増えています。この背景には、深刻な現実があります。ユニセフが発表した「レポ―トカード16」(2020年度)では、子どもの幸福度を、精神的幸福度、身体的健康、スキルの3つの側面から考え、それぞれ2つの指標を使って分析しています。精神的幸福度は生活満足度・自殺率を指標とし、身体的健康は子どもの死亡率・肥満率を指標としています。スキルについては、学力・社会的スキルの側面から分析しています。 同調査によると、日本の子どもの幸福度は38カ国(※)中20位でした。しかも、分野ごとの内訳をみると、身体的健康は1位でありながら、精神的幸福度は最下位に近い37位という結果であることが分かりました。

この衝撃的なデータは、日本の子どもたちが身体的には健康でありながら、心の健康に課題を抱えていることを示しています。

自己肯定感とは何か?

自己肯定感とは、ありのままの自分自身を認められる感覚のことをいいます。自己肯定感が高いと、自分の置かれた環境や能力などにかかわらず自分を受け入れ、自信を持つことができます。自分のことが好きで自分には価値があると思えているので、ものごとに積極的に取り組むことができるのです。

より詳しく説明すると、自己肯定感(self-esteem)は、一般には自信(pride、self-confidence)に近い語感です。また、心理学には自尊心(self-respect)、自己効力感(self-efficacy)、自己有能感(self-competence)、自己受容感(self-acceptance)などの研究もあります。それらは類似する部分もありますが、異なる概念です。しかし、本稿では、これらを厳密に区別せずに、自己肯定感を「自分を肯定的にとらえる意識や感情」といった程度に定義しておきます。

10年後の幸福度に関する研究データ

自己肯定感と長期的な影響について

長期的な研究データを見ると、自己肯定感の高低が将来の幸福度に大きな影響を与えることが分かっています。

縦断研究(longitudinal studies)では、他者から価値を認められることが子どもや青年の自己肯定感を高めることが示されています。特に、親の温かさ—愛情、支援、養育、関心、関与、反応性、受容を特徴とする—についての研究では、子どもの自己肯定感との間に正の関連があることが示されています。

自己肯定感が高い子どもの特徴と将来への影響

自己肯定感が高い子どもには、以下のような特徴があります:

・自分の気持ちや考えを素直に話せる ・考え方が前向き ・自分に自信がある ・自分のことが好き ・ものごとに意欲的に取り組める ・周囲の人のことを認めることができる ・友達や周囲の大人とうまくコミュニケーションがとれる ・失敗してもあきらめない

自己肯定感が高い人ほど学校の成績が良く、収入が高い傾向にあるというデータもある。自己肯定感の高さは人生に大きな影響を与えるのだ。

自己肯定感が低い子どもの将来リスク

一方で、自己肯定感が低い子どもには以下のような特徴が見られ、将来的な困難につながる可能性があります:

・自分の意見をはっきりと言えない ・ものごとを否定的にとらえる ・自分に自信がない ・自分のことが嫌い ・失敗を恐れてものごとに積極的に取り組めない ・周囲の人を信用できない ・他者を排除したり攻撃したりする ・他人と自分を比べて劣等感を抱く ・すぐにあきらめる

自己肯定感が低い子どもは、自分に自信が持てないことで内向的でおとなしいと思われがちですが、中には低い自己肯定感を満たそうと過度に強い承認欲求を持っていたり、友だちに対する嫉妬心から大人の見ていないところで意地悪をするような問題行動につながることがあります。他にも、授業の理解度が低かったり、友だちと上手に関係を築けない、学校の遅刻や欠席が多くなるなどの問題行動につながることもあります。

幸福度への具体的な影響

学業成績との関連

2017年度の結果は、「自分には、よいところがあると思いますか」という質問に小学6年生の38.6%が「当てはまる」と回答。また、学力調査の平均正答率とクロス集計を行なったところ、先の質問に対して「当てはまらない」「どちらかといえば、当てはまらない」と答えた児童よりも、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と答えた児童の方が成績も良い傾向がみられました。自己肯定感が高いほうが、学力も高いといえるでしょう。

人間関係への影響

自己肯定感が高いと、他人と良い関わりを築くことができるといわれている。久芳・竹村(2004)によれば、自己肯定感の高い生徒ほど他人との関係が良好だという。精神状態が安定するため余裕が生まれ、他人のことも受け止めることができる。他人を受容することは周囲の人間の精神的な安定につながり、結果、良好な人間関係を築くことができる。

幸福度に関する調査結果

自己肯定感がふつう~かなり高い結果の方」「自己肯定感がやや低い~かなり低い結果の方」、それぞれが「自分の人生はとても幸福だと感じる」という質問に対してどのように回答しているかを確認しました。その結果、自己肯定感がやや高い~かなり高い結果の人(全体の約25%)は90%以上の方が自分の人生は幸福だと回答しているという驚くべき結果が出ています。

自己肯定感を高める方法

1. 褒めることの重要性

文部科学省のデータによると、子どもは親に褒められることで「自分らしさ」を感じられるとしています。そして自分らしさを感じた結果、自己肯定感が高くなる傾向があることがわかっています。

保護者の方が子どもを褒めることは、自己肯定感を高めるのに大きな役割を果たします。子どもは褒められることで自信を持ち、さらに、他者への信頼感を高めます。 周りの人に対しても優しい気持ちになり、思いやりを持てるようになるでしょう。 褒めるときには子どもの能力や結果だけを褒めるのではなく、子どもの人格を尊重し、がんばったところを具体的に褒めてあげると良いでしょう。

2. 体験活動の重要性

自然体験や生活体験、文化芸術体験が豊富な子供、お手伝いを多く行っている子供は、自己肯定感が高く、自立的行動習慣や探究力が身についている傾向がある。

文部科学省のデータによると、自然体験や生活体験などの体験が豊富な子どもは自己肯定感が高い傾向があります。自己肯定感以外にも、道徳観や正義感も高くなりやすい傾向が見られています。

3. 失敗への対応

子どもが何か失敗したりうまくできなかったりしたときには「大丈夫だよ。またやってみよう」「うまくいかなかったけど、とってもがんばっていたよ」と、声をかけてあげましょう。 前向きな声かけで子どもは「失敗してもやり直せばいいんだ」と安心することができます。また、失敗しても受け入れてもらえることで「自分は大切な存在なんだ」と改めて気づくことができるはずです。

注意すべきポイント

自己肯定感を高めることは重要ですが、過度になってはいけません。自己肯定感が低すぎることは問題ですが、過剰な自己肯定にも弊害が予想されます。高い自己肯定感を維持するために、子どもたちは無能さを露呈させない方略を身に付けるようになるという研究(Covington,1992)もあります。難しい課題が与えられたときに、わざと努力をせず、失敗の原因を能力に帰属させない心的機制が働くというのです。

まとめ:10年後の幸福度を左右する要因

研究データから明らかになったのは、自己肯定感の高低が子どもの将来の幸福度に大きな影響を与えるということです。自己肯定感が高い子どもは:

  • 学業面で優れた成果を示す傾向がある
  • 良好な人間関係を築きやすい
  • 挫折に強く、チャレンジ精神を持つ
  • 将来的に高い幸福度を感じやすい

自己肯定感が十分に育っていないと、子どもは生きづらさを抱えたまま人生を歩んでいくことになります。子どもの幸せな人生のためにも、小さいうちから自己肯定感が高まるような態度や言葉かけを意識したいものです。 基本は「子どものありのままを信じて受け入れること」です。保護者の方が常に子どもの味方でいること、そして、大切に思っていると伝え続けることで、子どもの自己肯定感は育っていきます。

子どもの将来の幸福度は、今この瞬間の関わり方にかかっています。適切な自己肯定感を育むことで、子どもたちがより豊かで充実した人生を歩んでいけるよう、私たち大人が支援していくことが重要です。


参考:本記事は文部科学省、内閣府、ユニセフなどの公的機関のデータおよび国内外の研究論文を基に作成しています。

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