はじめに:なぜ今、マネー教育が必要なのか
2022年度から高校の家庭科で金融経済教育が義務化され、日本でもようやく「お金の教育」への関心が高まっています。しかし実際には、金融教育を学校等で受けた人の割合は、米国が20%であるのに対し、日本はわずか7%と1割にも達していません。
現代の子どもたちは、キャッシュレス決済の普及により「お金の実感」を持ちにくい環境で育っています。「お金はATMからいくらでも引き出せる」と思い込んでしまっている子どもも実際にいるのが現状です。
だからこそ、家庭でのマネー教育がより重要になっています。この記事では、学校では教えてくれない「お金の話」を、家庭でどのように始めればよいかを包括的に解説します。
日本と海外のマネー教育格差
海外の先進事例
アメリカ:実践的な金融教育
アメリカではNPO法人「ジャンプスタート(JumpStart)」が中心となり、幼児期から高校卒業までに身につけるべきお金の知識を教育基準としてまとめ、多くの教育現場で採用されています。
アメリカの金融教育6カテゴリー
- 支出と貯蓄
- クレジットと負債
- 勤労と所得
- 投資
- リスクと保険
- 金融上の意思決定
イギリス:社会責任を重視した教育
イギリスでの金融教育は、お金の計算や資産形成だけではなく、「社会的責任」を果たす能力を育成する場であるという考え方にあり、将来の健全な金融行動の「基礎」として位置付けています。
海外との決定的な違い
米国では、金融は生活に密着したごく身近な教育であり、将来を生き抜くために全員が身につけておくべき知識であると認識しています。一方、日本は金融と生活がなかなか結びつかず、何のために金融を学ぶのか理解できないまま学習を進めているのが実情です。
マネー教育で子どもが得られる5つのメリット
1. 金銭感覚の養成
お金をやりくりする能力が養われるにつれて、欲しいものと必要なものを区別してお金を使うことができるようになります。
2. 将来への不安軽減
お金に対する先入観がない子どもの時期から教育をすることで、お金についてわからないことが原因の漠然とした不安を小さくすることができます。
3. 選択肢の拡大
お金の教育によって、お金の管理ができるようになると、お子さまの選択肢を増やすことができます。お金が管理可能なものであると考えられると、お金のために働くのではなく、自分が本当にやりたいことに取り組めるようになります。
4. トラブル防止能力
普段から家族や周りに相談する癖をつけておくことで、金銭トラブルを防止したり、万が一巻き込まれてしまった場合でも他の人の力を借りたりして解決方法を探すことができます。
5. 計画的な資産形成
子どものうちから資産形成の重要性を理解できれば、将来のライフプランを考えて行動できるようになるでしょう。また、早いうちから将来のお金を計画的に準備できるようになるメリットもあります。
年齢別マネー教育の進め方
3歳~小学校低学年:基礎づくり期
教える内容
3歳ごろから小学校の低学年くらいにかけては、おもちゃや物を大切にする、保護者や周囲の人への感謝の気持ちを持つ、約束を守るといった基本的な行動や態度を養うことが、金融教育の第一段階です。
具体的な方法
- 買い物の同行:子どもと一緒に買い物をし、大人がお金を支払う場面を子どもが見る機会を増やす
- お金の流れを説明:「パパ・ママが働いているからお金がある」ことを伝える
- 物を大切にする習慣:おもちゃや食べ物を大切にする心を育てる
小学校中学年:実践開始期
教える内容
- お金の貸し借りの危険性
- 計画的なお金の使い方
- おこづかい管理の基本
具体的な方法
おこづかい制の導入 この時期からおこづかいを渡し、子どもがお金を管理する能力を磨いていきましょう。自分で使えるお金を手に入れて、お金を使うことの楽しさを学ぶのもよい経験です。
おこづかいの3つの渡し方
- 定額制:毎月決まった額を渡す
- 報酬制:お手伝いの対価として渡す
- ミックス制:定額+報酬の組み合わせ
小学校高学年:応用期
教える内容
- より複雑な金銭管理
- 社会とお金の関係
- 将来設計の基礎
具体的な方法
- 将来の夢とお金の関係を話し合う
- 社会の仕組み(税金、社会保障など)の基礎を説明
- 投資の概念を簡単に紹介
家庭でできる実践的マネー教育法
1. おこづかい教育の実践
おこづかい金額の目安
小学1・2年生のおこづかいの金額は、1位 500円未満 62.8%、2位 500円~1,000円未満 35.7%。小学3・4年生では、1位 500円未満 44.0%、2位 500円~1,000円未満 45.7%となっています。
おこづかい教育の5つのルール
1. 親子でルールを決める ルールを決める際は、子どもと一緒に考えることが大切です。一緒に考えることで、子どもがルールを自主的に守ってくれるようになります。
2. おこづかい帳をつける 子どもにおこづかい帳をつけさせて、収入、支出、残金を管理してもらい、それを親が確認することは必要です。
3. 使い道に口出ししない 金銭感覚を養うためには、多少の失敗はつきものです。失敗を繰り返していくうちに、子どもも学習し、上手にお金が使えるようになっていきます。そのため親子で決めたルールを守っていれば、使い道に対していちいち口出しするのはやめましょう。
4. 現金から始める おこづかいの管理がある程度身につくまでは、増減を目で確認できる現金で渡すほうがおすすめです。
5. 段階的に電子マネーを導入 これからの時代を考えれば、現金も電子マネーも同等に使えるようになるのが理想です。「交通費以外では使ってはダメだよ」などルールを決めたうえで、電子マネーも現金と同じように使えるように教育していきましょう。
2. 家庭でお金について話す
効果的な話し方のポイント
お家の中で積極的にお金の話をすることで、お金の話がタブーではないことを伝えられます。話をする際は、お金が足りないことよりも、お金を使って何ができたか、何を得られているかポジティブな言葉を使ってみましょう。
仕事とお金の関係を伝える
保護者が子どもに自分の仕事の話をし、仕事の意義やお金との関係を子どもが考えられるようにすることが大切です。
3. 実践的な体験学習
夕食の買い物計画
夕ご飯のメニューを決め、決まった予算内で買い物をするのは、子どもにとっては意外と難しいのです。「牛肉は高いから、鶏肉にしよう」、「袋入りの野菜の方が割安だけど、余った分は何に使おう」など、お金の使い方を考えることができます。
お年玉の管理
お年玉を親が全額預かってしまうのは考えもの。お年玉からいくらか子どもに渡して、「〇円以上使うときは、必ず相談してね」などルールを決めて、子ども自身でお金を管理する経験を積んでいきましょう。
マネー教育の4つのコアメッセージ
1. お金=ありがとうの交換
お金は汚いものではなく、「ありがとう」と交換する素晴らしいものだよ、と自然とお子さんに伝えることができます。
2. 働くことの意味と価値
一生懸命働いた結果いただけるお給料は大切にしなければなりません。またそうやって稼いでくれているおうちの方に感謝しなければなりません。
3. 計画的な使い方
欲しいものと必要なものを区別し、優先順位をつけてお金を使う大切さを教える。
4. 相談することの重要性
お金で困ったときは一人で抱え込まず、信頼できる人に相談することの大切さを伝える。
やってはいけないNGマネー教育
1. 「お金は汚いもの」という価値観
お金に対するネガティブなイメージを植え付けない。
2. 過度な節約志向
「無駄遣いはダメ!」「貯金しなさい」と教えるママやパパも多いと思うのですが、言い過ぎるのはNGです。なぜなら、お金は貯めるだけではなく、バランスよく、上手に使えるようになることも大切だからです。
3. 失敗への過度な叱責
失敗は学習の機会として捉え、責めすぎない。
4. 親の価値観の押し付け
子どもの考えや興味を尊重し、一方的に価値観を押し付けない。
活用できるツールとリソース
デジタルツール
- 三井住友カード「ハロまね」:おこづかいの収入・支出管理機能のほかにも、銀行や利息、外貨交換の仕組みを学べるハロまね銀行機能
- NTTドコモ「comottoウォレット」:家庭でのお手伝いやおこづかい管理を通じたお金の教育
書籍・教材
- 「10歳から知っておきたいお金の心得」(えほんの杜)
- 「ドラえもん社会ワールド お金のひみつ」(小学館)
- 金融広報中央委員会「知るぽると」の教材
体験型学習
- キッズマネースクール:お仕事ということを学ぶ。仕入れや開店準備、お金の計算、販売。楽しい中でも大変さを学んでもらいます
- 銀行見学・金融機関の子ども向けイベント
段階別実践スケジュール
Phase 1(3-6歳):お金の存在認識期
目標:お金が何かを理解する
- 買い物に同行させる
- 「働くからお金がある」を教える
- 物を大切にする習慣づけ
Phase 2(小学1-3年):基本管理期
目標:簡単なお金の管理ができる
- おこづかい制の開始
- おこづかい帳の記録
- 貯金の概念を教える
Phase 3(小学4-6年):応用実践期
目標:計画的にお金を使える
- 予算立ての体験
- 将来の夢とお金の関係を考える
- 社会の仕組みの基礎を学ぶ
Phase 4(中学生以上):発展期
目標:金融の基本概念を理解する
- 投資の基本概念
- リスクとリターンの関係
- 社会保障制度の理解
親が知っておくべき注意点
1. 親自身の金融リテラシー向上
家庭で子どもにお金の教育をするには、親自身の金融知識も重要です。金融知識に自信がない場合は、子どもと一緒に学んだり、実際に資産運用に取り組んでみたりしながら知識を深めていくことが大切です。
2. 焦らず子どものペースで
「子どもにお金について教えたいが何をすればよいか、周りがやっているから気になります」と保護者のかたから質問を受けますが、焦る必要はありません。お子さまにどんな人になってほしいのか、そのために何が必要なのかをまずは考えましょう。
3. 継続的な関わり
マネー教育は一度で終わりではなく、継続的な関わりが重要です。
よくある質問とその回答
Q1: いつからマネー教育を始めるべき?
A: 教育する内容によっても異なりますが、お金に関心を持ち出す小学校低学年ごろからはじめるのがおすすめです。ただし、その前の幼児期から基礎づくりを始めることが大切です。
Q2: おこづかいはいくらあげるべき?
A: 家庭の経済状況や教育方針によりますが、小学1・2年生で500円未満、小学3・4年生で500円~1,000円未満が一般的です。
Q3: 失敗したらどう対応すべき?
A: 子どもは無駄づかいをした結果、必要なものを買うためのお小遣いが足りなくなるという失敗を経験し、お金を使う優先順位をつける大切さを学びます。失敗を経験させることも、教育の一環として必要です。
Q4: 電子マネーはいつから持たせるべき?
A: 現金での管理が身についてから段階的に導入しましょう。ルールを決めて、交通費などの特定用途から始めるのがおすすめです。
まとめ:子どもの未来を豊かにするマネー教育
マネー教育は単なる「お金の勉強」ではありません。金融教育とは、「金銭教育」「経済教育」「投資教育」などのお金に関連する教育を総称し、社会を生き抜く力を育てる教育といえます。もっと簡単にいうと「しつけ」と「知恵」を習得するための教育なのです。
マネー教育の最終目標
- 自立した大人として経済的に安定した生活を送る能力
- お金に振り回されない、健全な金銭感覚
- 社会の一員として責任ある経済行動をとる姿勢
- 困ったときに適切に相談・解決できる力
今日から始められる3つのステップ
- 家庭でお金の話をオープンにする お金について話すことがタブーではないという雰囲気作りから始める
- 子どもの年齢に合ったおこづかい制を導入 少額からでも良いので、お金を管理する経験を積ませる
- 日常の買い物や体験を学習機会に変える 特別なことをしなくても、日常生活がマネー教育の場になる
現代社会では、お金との正しい付き合い方を知ることが、子どもたちの将来を大きく左右します。海外に比べて遅れをとっている日本のマネー教育ですが、家庭での取り組みによって十分に補うことができます。
「子どもは、お金に興味を持ち、その秘めた魅力を知りたがっているのです。大人がダンマリを決め込んでいると間違った情報が入り、人生を台無しにしてしまうかもしれません。もっとオープンにお金のことを子どもと話してみませんか?なぜなら、子どもはお金が好きやねん!」
今日から、お子さんと一緒にマネー教育の第一歩を踏み出してみませんか?きっと、お金について学ぶことが、親子の新しいコミュニケーションの機会にもなるはずです。
参考文献: – 金融広報中央委員会「知るぽると」 – 金融庁「基礎から学べる金融ガイド」 – りそなグループ「金融教育に関するアンケート調査」 – 各種金融教育関連機関資料
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