はじめに
「うちの子はいつもいい子で、手がかからなくて助かる」 「親の言うことをよく聞いて、素直で優秀な子」
そう思っている保護者の方、もしかすると見過ごしているサインがあるかもしれません。子どもが「良い子」でいようと過度に頑張っている時、心の奥底でSOSを発していることがあります。
子どもたちは、意識しないうちにストレスを身体やこころが感じ取り、さまざまな「ストレスサイン」を示します。これらの「ストレスサイン」は、子どもたちから周りの大人たちへの「SOS」のサインなのです。
現代の子どもが抱える「いい子症候群」とは
いい子症候群の実態
「いい子症候群」とは、保護者の期待に応えられる「いい子」でいようとがんばりすぎてしまう子どものことです。いい子でいること自体が問題なのではなく、親に認めてもらえるいい子でいようとすることを優先しすぎてしまい、心の中に多くのストレスを抱え込んでしまうことが問題なのです。
完璧主義への圧迫
完璧主義の人々は、他者から愛され、他者から認められるには、完璧なパフォーマンスを発揮しなければならないと考えてしまいます。 現代の子どもたちは、以前よりも高い期待とプレッシャーにさらされています。
親が成果ばかりを重視すると、子どもは自分の本質や価値は成果によって決まると考えるようになります。子どもが失敗したときに親があからさまにがっかりしたり怒ったりすると、親の愛情は成功ありきで、自分が価値のある愛すべき存在かどうかは、どんな成果を出すかで決まる(ありのままでは不十分)と考えるようになる危険性があります。
子どもの隠れたSOSサイン:5つのカテゴリー
専門家によると、子どものストレスサインは主に以下の5つの面に現れます。
1. 睡眠の変化
布団に入っても、なかなか寝つけないようだ。
- 寝つきが悪くなる
- 夜中に何度も目を覚ます
- 朝起きられない、起きても目が開かない
- 悪夢を見ることが増える
- 逆に寝すぎてしまう
2. 食欲・食行動の変化
- 食欲がなくなる、または過度に食べる
- 好きだった食べ物を嫌がる
- 食事中の集中力がない
- 体重の急激な変化
3. 身体症状
睡眠の問題や食欲不振、さまざまな痛み、微熱などの身体の症状が現れることがあります。
- 頭痛や腹痛を頻繁に訴える
- 原因不明の微熱
- アレルギー症状の悪化
- チック症状(まばたき、首振りなど)
- だるさ、疲れやすさ
4. 行動の変化
気持ちに余裕がなくなった子どもが、園や学校といった家庭以外の場所で問題を起こすようになるのは、SOSサインのひとつであることが多いです。
- 友達との遊びを避ける
- 一人でいることを好むようになる
- 外での問題行動(先生から連絡が来るような出来事)
- 以前楽しんでいた活動への興味を失う
- 完璧にできないことを避ける
- 理由もなく物を欲しがる
5. 感情・心理面の変化
「自分はダメな人間だ」「がんばっても意味がない」など、ネガティブな言葉を発するようになった場合も要注意です。
- イライラしやすい、怒りっぽい
- 些細なことで泣く
- 自己否定的な言葉を使う
- 家族との会話を避ける
- 表情が乏しくなる
- 過度に良い子を演じる
見逃しやすい「完璧主義」のサイン
お絵かきや作品に見る変化
お絵かきのモチーフや、色づかいが変わる(陰鬱なモチーフをかく、暗い色づかいをする、など)ことも重要なサインです。
両極端な症状の出現
食欲が出過ぎたり・なくなったり、眠れなくなったり・逆に寝過ぎたり、また、怒りっぽくなったり・すぐ泣いたりするなど、両極端の症状が出ることがあるのも「ストレスサイン」の特徴なのです。
完璧主義特有の行動パターン
思い入れが強い分、「これは絶対に善だ」と判断して行動したので、完璧な結果を生まなければ、全てを否定し、自分を責め続けてしまうのです。
- 少しのミスで大きく落ち込む
- 完璧にできないと癇癪を起こす
- 失敗を極度に恐れる
- 新しいことに挑戦しなくなる
SOSサインに気づいたときの対処法
1. まずは話を聞く
子どもが話した内容を、時々くりかえす。とくに「つらい」「悲しい」「不安」など感情を表す言葉は伝え返す。「つらいのね」など。
具体的な聞き方
- 「どうしたの?」ではなく「今日はどんな気持ち?」
- YES/NOで答えられない質問をする
- 子どもの感情を否定しない
- 解決策を急がず、まずは気持ちを受け止める
2. 失敗を許容する環境づくり
失敗に対し保護者の方が寛大でなければ、子どもは失敗を恐れるようになり、挑戦することに消極的になったり嘘や言い訳でごまかしたりするようになることもあります。
実践のポイント
- 減点法ではなく加点法で評価する
- 結果よりもプロセスを褒める
- 失敗したときは解決策を一緒に考える
- 「大丈夫」という安心感を伝える
3. 子どもの意見を尊重する
子どもの気持ちをしっかりと受け止め、尊重してあげることです。たとえ親の考えと違ったことを子どもが言ってきたとしても、頭ごなしに否定するのではなく、自分の気持ちをしっかりと伝えられたことをまずは認め、受け止めてあげるようにしましょう。
4. 親子の時間を確保する
とにかく親が「自分だけに意識を向けてくれている」という時間を、短時間でも確保することをおすすめします。
効果的な過ごし方
- 寝る前の読み聞かせや会話
- 一緒にできる簡単な活動
- 子どもが興味を持っていることに関心を示す
- スキンシップ(ハグなど)を大切にする
5. 過度な期待を見直す
子どもの「現時点での能力」をちゃんと理解できずに、高いレベルばかり要求した結果、子どもの脳は強制的に『低次思考』のレベルへと思考力を戻します。
見直しのポイント
- 子どもの発達段階に合った期待を持つ
- 他の子との比較を避ける
- 親自身の価値観を押し付けない
- 子ども自身の興味や関心を大切にする
いつ専門家に相談すべきか
早期相談が推奨される状況
これまでなかったのに、このようなサインが見受けられるようになった場合や、長く続くような場合は、それはこころのSOSなのかもしれません。こころの病気は、多くの場合、早期に治療するほど回復も早くなるといわれています。
相談のタイミング
- SOSサインが2週間以上続く
- 複数のサインが同時に現れる
- 日常生活に明らかな支障が出ている
- 自傷行為や自殺をほのめかす言葉がある
- 親の対応だけでは改善が見られない
相談先
- 学校のスクールカウンセラー
- 地域の保健センター
- 子ども家庭支援センター
- 小児科・児童精神科
- 臨床心理士・カウンセラー
予防のために普段からできること
1. 日常的な観察
SOSサインに気づくには日頃のコミュニケーションが大事です。普段から子どもの様子を観察し、「いつもと違う」変化に敏感になりましょう。
2. 感情表現の育成
語彙力や文章力がつき、また登場人物の言動から感情を言語化するパターンも少しずつ把握できるだけでなく、親が自分のほうを見てくれているということに安心するのです。
3. 安心できる環境づくり
期待に応えなくても、愛されている。存在自体を認めてもらえている。失敗しても、期待に応えられなくても、見捨てられることはない。そう信じられる子どもたちの心は元気です。
4. 適度な距離感の維持
過度な期待や管理は逆効果です。子どもの自主性を尊重し、失敗から学ぶ機会を提供することが大切です。
まとめ
「良い子」でいようと頑張りすぎる子どもたちは、その優秀さの陰で深いストレスを抱えていることがあります。自分の苦痛や不安をうまく言葉にして伝えられない小さな子どもにとって、「SOSサイン」は大人が気づいてあげなければならない大事なメッセージです。
大切なのは、子どもの小さな変化に気づき、その背景にある気持ちに寄り添うこと。完璧を求めすぎず、子ども自身の存在価値を認め、安心して失敗できる環境を作ることです。
何より重要なのは、子どもが「ありのままの自分で愛されている」と感じられること。そんな土台があってこそ、子どもは健やかに成長し、本来の力を発揮できるのです。
もし心配なサインに気づいたら、一人で抱え込まず、専門家のサポートを求めることも大切な選択肢の一つです。子どもの心の健康を守るために、私たち大人ができることから始めていきましょう。
参考:厚生労働省「こころもメンテしよう」、日本医療政策機構「子どものメンタルヘルス」調査報告書、各種専門家による研究論文・記事
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