2020年から小学校でプログラミング教育が必修化され、保護者の間では「本当に必要なの?」「家庭で何かしたほうがいいの?」といった疑問や不安の声が聞かれます。実際、調査によると8割以上の保護者がプログラミング教育に不安を感じており、特に「親である自分が理解できるかわからない」という回答が半数以上を占めています。
この記事では、プログラミング教育の真の目的と効果、そして家庭でできるサポート方法について詳しく解説します。
プログラミング教育の必修化はなぜ起こったのか
社会背景とデジタル化の進展
プログラミング教育必修化の背景には、急激なICT技術の進歩があります。誰もがスマートフォンを持ち、インターネットを通じてやり取りをしたり情報を取得したりする世の中で、ICTは私たちの生活に欠かせない存在になっています。
現代社会は、情報化とグローバル化の波に飲み込まれ、かつてない速さで変化しています。人工知能(AI)などの技術革新は、私たちの生活や仕事の形を大きく変え、今後もその勢いは増していくでしょう。
IT人材不足への対応
「IT人材需給に関する調査」の調査報告書によると、2030年には約16〜79万人のIT人材が不足すると予想されています。この深刻な人材不足を解決するため、幼少期からプログラミングに親しんでもらい、ICT分野への関心を高めることが重要視されています。
プログラミング教育の真の目的
プログラミング言語習得ではない
まず重要なのは、プログラミング教育の目的について正しく理解することです。実際のところは「考え方」を学んでいるだけで、一般的なプログラミングの習得が目的ではありません。
三つの主要な目的
文部科学省が定めるプログラミング教育の目的は以下の3点です:
1. プログラミング的思考の育成
プログラミング的思考とは、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」です。
2. コンピューターの身近さへの気づき
身近な生活でコンピューターが活用されていることや問題の解決には必要な手順があることに気付くことを目的としています。
3. 各教科の学習効果向上
各教科の理解をより深めることもプログラミング学習の狙いとして挙げられます。算数や理科などの既存強化と組み合わせた教育方法が取られています。
プログラミング教育の効果とメリット
論理的思考力の向上
プログラミングを学ぶと「論理的思考力」や「問題解決能力」が身につきます。プログラミングはコードをひとつでも間違えると正常な動作ができないため、必然的に「どうして間違ったんだろう」と考えるようになります。
創造力と問題解決能力の育成
プログラミング教育の最大の目的は、まだ考え方の柔軟な子どもたちにプログラミング的思考を育むことにあります。この思考力は普遍的なものであり、今後の社会においては、その重要度がさらに増していくと考えられています。
将来の選択肢拡大
子どもたちの将来的な仕事の選択肢が増やせることも、プログラミング教育のメリットです。プログラミングの知識は、エンジニアのみが必要な技能ではありません。多くの分野でIT技術が導入されており、たくさんの職業でプログラミング知識を必要とするケースが増えています。
各教育段階での学習内容
小学校(2020年〜必修化)
小学校では算数や理科などの既存科目にプログラミングの要素を取り入れる形で学びます。何年生でどの教科にどのようにしてプログラミング要素を取り入れて指導するかは、学校の裁量次第となっています。
主な特徴:
- アンプラグドプログラミング(PCを使わない)から開始
- 徐々にPCを使ったプログラミング教育へ移行
- 各教科の学習をベースとした統合的な学習
中学校(2021年〜拡充)
2021年、中学校の技術・家庭科に「情報の技術」が正式科目として追加され、プログラミング教育が必須化されました。小学校でのプログラミング教育が論理的思考育成を主眼としているのに対し、中学校のプログラミング教育では、情報通信の仕組みを理解した上で活用しながら、設定した課題を解決することが求められています。
高等学校(2022年〜情報Ⅰ必修化)
2025年度からは大学入学共通テストに教科として「情報」が新設され、「情報I」が出題科目として設定されました。
家庭でできる具体的なサポート方法
1. 無料で利用できる学習ツール
Scratch(スクラッチ)
小学校で最も使われているのは、スクラッチというプログラミング教材。文字が書かれているブロックを並べるだけで、キャラを動かしたり、ゲームやアニメーションが作れます。
Viscuit(ビスケット)
「Viscuit(ビスケット)」は、2020年度から必修化される小学校のプログラミング学習で、文部科学省が紹介しているプログラミング教材です。無料で使えて、小さなお子さんでも使いやすいので、家庭で使うこともできます。
Code.org
Code.org はアメリカの非営利団体が運営する、子供(4歳〜13歳)を対象に、プログラミングを学習できるウェブサービスです。運営は寄付によって賄われており、利用者は無料で使うことができます。
その他の無料ツール
- micro:bit(マイクロビット)
- MakeCode
- Springin’(スプリンギン)
2. 親のサポート姿勢
完璧を求めない
プログラミング教育の目的を、子どもたちに「プログラミング的思考」を身につけることとしています。ですから、「プログラミング教室へ通わせなければならない」とか「専用のパソコンを買って準備しなければならない」などといったことはありません。
興味を重視する
小学校の教育課程において重要なポイントは、「興味を持ってもらう」ことです。将来、職業に就くにあたって多くの選択肢を持たせるために、さまざまなことに触れ、体験してもらうこと。これこそが、小学校の生活において、最重要事項になります。
3. 学習をサポートする5つのポイント
LITALICOワンダーが実践している「プログラミング学習を進める5つのポイント」を参考に、以下のような関わり方がおすすめです:
- 子どもの興味や関心を最優先する
- 正解を教えるより、一緒に考える
- 失敗を恐れずチャレンジできる環境を作る
- 成果物を一緒に楽しむ
- 子どものペースを尊重する
4. 親子で学ぶメリット
プログラミング教育は始まったばかりであるため、学校任せにしていては子供の将来に役立てることが難しくなる可能性があります。そのため親が自身の社会経験やビジネス経験を通して、プログラミングがどのように役立つのかを子供に示していく必要があります。
よくある不安への回答
Q: プログラミングが難しすぎるのでは?
実際のところは「考え方」を学んでいるだけで、「想像より難しいかも」といった不安は、不要です。小学校段階では基本的な考え方を楽しみながら学ぶことが中心です。
Q: 親がプログラミングを知らなくても大丈夫?
「親である自分が理解できるかわからない」という回答が半数以上を占めている現状ですが、親がプログラミングの専門知識を持つ必要はありません。重要なのは子どもの学習を温かく見守り、興味を育むことです。
Q: 特別な準備は必要?
特別に何かすべきことはありません。多くの学習ツールは無料で利用でき、家庭にあるPCやタブレットで十分始められます。
まとめ:プログラミング教育の本質
プログラミング教育は単なるコンピューター技術の習得ではなく、論理的思考力、問題解決能力、創造力を育む教育です。これらの能力は将来どのような職業に就くにしても必要となる、普遍的なスキルです。
家庭でのサポートは、子どもの興味や関心を大切にし、一緒に楽しみながら学ぶ姿勢が最も重要です。完璧を求めるのではなく、プロセスを重視し、子どものペースに合わせて進めていきましょう。
プログラミング教育を通じて、子どもたちが未来社会を生き抜く力を身につけることができるよう、保護者としても理解を深め、適切なサポートを提供していくことが大切です。
※この記事の情報は2025年時点のものです。教育制度や学習ツールについては、文部科学省の公式サイトや学校からの最新情報をご確認ください。
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