はじめに
近年、イクメンという言葉が定着し、父親の育児参加の重要性が広く認識されるようになりました。しかし、単に家事や育児を手伝うだけではなく、父親ならではの関わり方が子どもの学力向上に大きな影響を与えることをご存知でしょうか。本記事では、最新の研究結果を基に、父親の育児参加がもたらす学力への効果と、母親とは異なる関わり方の重要性について詳しく解説します。
父親の育児参加がもたらす学力への効果
1. 語彙力と言語能力の向上
研究によると、父親が育児をすると、子どものボキャブラリーが増えたり、いま話題の非認知能力が養われることが明らかになっています。特に読み聞かせにおいては、ハーバード大学の研究チームは、本の読み手が母親の場合と父親の場合に分けて、それぞれが子どもに与える影響を研究しました。研究によると、父親の読み聞かせによって、子どもの想像力や語彙力において、より良い効果があるとの結果が出ましたという興味深い結果が報告されています。
父親の読み聞かせが効果的な理由
- 母親とは異なる声の質と話し方
- 新鮮さによる子どもの集中力向上
- 父親視点での対話の展開
2. 認知能力と非認知能力の向上
父親の育児参加は、単純な学力だけでなく、子どもの総合的な能力向上に寄与します。非認知能力とは、社交性とか、自尊心、忍耐力などの能力で、IQ(知能)よりも、将来の社会的成功に結びつきやすい能力といわれています。
父親が育てる非認知能力
- 社交性とコミュニケーション能力
- 自尊心と自己肯定感
- 忍耐力と困難に立ち向かう力
- 問題解決能力
3. 学業成績への具体的な影響
厚生労働省の「育児と仕事の両立に関する調査」(2019年)によると、父親が1日あたり2時間以上育児に参加している家庭の子どもは、情緒不安定や問題行動を起こす割合が約15%低いという分析が公表されています。また、日本の大学生約500名を対象に「幼少期の父親との関わり頻度」と「現在の自己肯定感や対人関係スキル」を調べた回顧的調査(Tanaka et al., 2015)では、父親が週に1回以上、子どもと遊んだり会話したりしていたと回答したグループは、対人コミュニケーションスコアが約10%高く、ストレス対処能力も高い傾向が示されています。
母親と父親の育児における違い
関わり方の違い
母親の特徴
- 母親は感情を表現する言葉を多く使って、子どもが感情を理解する助けをする
- 日常的なケアと情緒的サポートが中心
- 安心感と愛着形成を重視
父親の特徴
- 父親は原因を説明する言葉を多く使って、子どもが論理を理解する助けをする。父親は、より長い言葉を使い、より抽象的な言葉を使う
- 子どもと接する時に、母親は身の回りの世話などの養育行為が多いが、父親は体を使う荒っぽい遊びが多い
- 冒険心と挑戦精神を育む
脳科学から見た違い
興味深いことに、父親から遺伝するのは、主に気分や本能をつかさどる脳の大脳辺縁系という部分に対して、母親から遺伝するのは主に記憶・思考・音声・知覚などの認識能力をつかさどる脳の大脳皮質と言われています。これらの違いが、子どもへの関わり方にも表れているのです。
年齢別:父親の効果的な関わり方
乳幼児期(0-2歳)
子どもが心の土台(情緒や性格の方向性)を形成する2歳頃までは、子育ての主役は母親であり、父親は「母親のサポート役」です。しかし、この時期から父親の関与は重要で、父親が、子どもの出生直後から子どもに充分に支持的に関与すると、子どもに良い影響を与え、生後7ヶ月の時点や生後3歳の時点で、子どもの言語発達はより良好となり、子どもはより高い知能指数IQを持つようになることが分かっています。
幼児期(2-6歳)
子どもの身体がしっかりしてくる2歳〜3歳以降は、父親が直接子どもと関わる場面が増えていきます。お馬さんごっこ、おんぶ、肩車、相撲など、身体が密着する(やや荒っぽい)遊びをしたり、家の外で一緒に身体を動かしたり、魚取りや虫取りをしたり、いつもとは違う場所で、いつもとは違う人と、いつもとは違う遊びを経験させるのに、父親は適任です。
学童期以降
特に、父親が子供の学校に関与すると、子供の学業成績に良い影響を与えることが研究で明らかになっています。この時期は、父親の論理的思考力や問題解決能力がより直接的に子どもの学習に影響を与えます。
父親の読み聞かせの特別な効果
「お父さん効果(The Father Effect)」
父親の育児参加が、子どもに良い影響を与える可能性があるという「お父さん効果(The Father Effect)」の中でも、読み聞かせは特に注目されています。
父親の読み聞かせの特徴
- 父親の話を聞いた子どもは、頭の中で登場人物の気持ちを想像したり、光景を考えたりするため、脳がより刺激を受ける
- 母親は可愛らしいイラストが多く、道徳を学べるような優しくほんわかした雰囲気の絵本を選ぶことが多い傾向にあります。しかし、父親は残酷な内容が含まれているものや、鼻くそやウンチなどの汚い話の絵本も選びます
脳科学的根拠
読み聞かせに関する脳科学研究では、まず、読み聞かせをする大人の脳ですが、一番強く活動していたのは、前頭前野の言語を担う場所ではなく、コミュニケーションの領域でした。親は本を読みながら、子どもにコミュニケーションを持ちかけていましたことが分かっています。
実践的なアドバイス
父親ができる具体的な取り組み
- 定期的な読み聞かせ
- 週に1回以上の読み聞かせを実践
- 母親とは異なる視点で本を選ぶ
- 子どもとの対話を重視
- 体験型の活動
- 自然体験や冒険的な遊び
- スポーツや身体を使った遊び
- 新しい環境での挑戦
- 論理的思考の育成
- 「なぜ?」「どうして?」を大切にした会話
- 問題解決のプロセスを一緒に考える
- 抽象的な概念の説明
時間がない父親へのアドバイス
仕事や用事が忙しくても、週末や平日の夜、15~30分でもいいので子どもと向き合う時間を決めることが重要です。最近の若い男性は、育児に積極的だといいます。実際、アンケートを取ると、男性も育児をするべきと答える男性がとても多くなっています。しかし、休日には5~6割の男性が育児をやっているものの、平日は約3割です。しかも、時間でみると、平均して1日約30分ほどですという現状がありますが、短時間でも質の高い関わりを持つことが大切です。
まとめ
父親の育児参加は、単なる母親のサポートを超えた、子どもの学力向上に欠かせない要素です。母親とは異なる関わり方を通して、子どもは:
- 語彙力と言語能力を向上させる
- 非認知能力を発達させる
- 論理的思考力を身につける
- 社会性とコミュニケーション能力を育む
- 自己肯定感と挑戦精神を養う
父親と母親の違いは、あったほうがいい。違いがあるからこそ、子どもは多くのことが学べるのです。忙しい日々の中でも、父親ならではの関わり方を意識して子どもと向き合うことで、子どもの学力と人生に大きな影響を与えることができるでしょう。
父親の皆さん、ぜひ積極的に育児に参加し、お子さんの可能性を最大限に引き出してあげてください。その効果は、学力面だけでなく、子どもの人生全体にわたって続くのですから。
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