はじめに:多くの親が抱える「ゲーム時間」の悩み
「子どもがゲームばかりして勉強しない」「時間を決めても守ってくれない」「他の家庭はどうしているの?」
現代の子育てで、多くの親が直面するのがゲーム時間の管理問題です。2022年に国立教育政策研究所が発表した「全国学力・学習状況調査」によると、「ゲームをまったくしない」という子どもは少なく、小学6年生でゲームをまったくしない子どもの割合は7.6%しかいません。つまり、9割以上の子どもは何かしらのゲームをしているというのが現実です。
ゲームは確実に子どもたちの生活の一部となっており、完全に禁止することは現実的ではありません。だからこそ、親子で納得できる適切なルール作りが重要になってくるのです。
今回は、専門家の見解や最新のデータを基に、子どものゲーム時間の適切な決め方と、実際に守ってもらえるルール作りの方法をご紹介します。
現在の子どものゲーム事情:データで見る実態
小学生の平均ゲーム時間
ニフティ株式会社のアンケートでは、小中学生は1~2時間が24%、30~1時間が23%との結果が出ています。3時間以上ゲームをする子どもは2割未満でした。このことから、小学生で3時間以上をゲームに費やしている場合は、ややゲーム時間が多い印象となります。
小学生のゲーム時間分布
- 30分〜1時間:23%
- 1〜2時間:24%
- 2〜3時間:約30%
- 3時間以上:約20%
青少年のデジタル機器利用時間
令和4年の調査によれば、青少年のインターネットの平均利用時間は、前年度より17分増加し「約4時間41分」となっています。10歳以上の小学生では、平均して1日に3時間34分程利用しているというデータがあります。
この中にはゲーム時間も含まれており、現代の子どもたちがいかにデジタル機器と密接に関わって生活しているかが分かります。
専門家が推奨するゲーム時間の目安
香川県条例が示す科学的根拠
2020年3月に成立した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」では、18歳未満を対象にゲーム利用時間を1日60分、休日は90分までとし、スマートフォンは中学生以下が午後9時まで、それ以外は午後10時までとする目安を設けました。
この時間設定には科学的根拠があります。「平日は60分まで」などの利用時間の根拠について、「令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にある」という結果を参考にしています。
年齢別推奨時間の目安
幼児(3〜6歳)
- 1日20〜30分程度
- 保護者と一緒にプレイ
小学校低学年(6〜9歳)
- 平日:30〜45分
- 休日:60分程度
小学校高学年(9〜12歳)
- 平日:45〜60分
- 休日:90分程度
中学生以上
- 平日:60分程度
- 休日:90〜120分程度
ただし、これらはあくまで目安であり、制限する時間はそれぞれの家の方針で決めて問題ありませんが、ある程度「満足感」を感じられることが大切です。あまりにも短いと不満が残ってしまい、他のことにうまく意識を移せなくなってしまう可能性もあることを理解しておく必要があります。
ゲーム時間制限が必要な理由
学習への影響
テレビやゲームが子どもの肥満や問題行動、学習時間に与える影響について分析したところ、1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子については最大1.86分、女子については最大2.70分、学習時間が増加するにすぎないという研究結果もあります。
しかし、これは単純に禁止した場合の話であり、適切なルール作りによって生活リズム全体を整えることで、より大きな効果が期待できます。
依存症のリスク
ゲームを長時間やり過ぎてしまうと、ゲーム依存症になる恐れがあります。ゲーム依存症とは、遊ぶ時間を自分でコントロールできなくなったり、引きこもりになったりするなど、ゲームのために日常生活に支障をきたしている状態です。
世界保健機関(WHO)も2019年に「ゲーム障害」を正式に疾病として認定しており、早期の予防対策が重要とされています。
身体的影響
長時間のゲームプレイは以下のような身体的問題を引き起こす可能性があります:
- 視力の低下:画面の見すぎによる近視の進行
- 姿勢の悪化:長時間同じ姿勢による肩こりや腰痛
- 睡眠障害:ブルーライトによる睡眠リズムの乱れ
- 運動不足:屋外活動時間の減少
親子で納得できるルールの作り方【5つのステップ】
ステップ1:現状把握と話し合い
まずは子どもの現在のゲーム利用状況を把握しましょう。
実践方法:
- 1週間のゲーム時間を記録
- 何時から何時まで
- どんなゲームを
- 平日と休日を分けて記録
- 子どもの意見を聞く
- どのようなゲームで、どこがおもしろいのか、どこで夢中になって止められなくなってしまうのかなど、現状を子どもにヒアリングしましょう
- ゲームの何が楽しいのかを理解する
- 友達との関係でゲームが必要な理由があるか確認
ステップ2:家族の価値観を共有
ルール決めの際には、保護者の想いを伝えることも大事です。ゲームの時間を考えて欲しいのはなぜなのか保護者の考えや思いを伝えると、ただ禁止をしたいわけではないことが子どもにも伝わります。
伝えるべきポイント:
- 勉強や健康を大切にしてほしい理由
- 家族との時間も大切にしたい気持ち
- ゲーム自体を否定していないこと
- 適度に楽しんでほしいという願い
ステップ3:子ども主体でルールを決める
ルールは、自分で決めた方が守ることができます。保護者のかたが一方的に決めたルールよりも、自分で「こうする」と決めたものの方が、守れる確率は高いのです。
効果的な決め方:
- 選択肢を提示する方法 「今日は〇〇があるから、ゲーム時間は30分、45分、1時間のどれか」といった具合です。子どもに選択権を与えると、責任感が芽生え、ルールを守る意識が育ちやすくなります
- 時間設定のコツ
- 「今日は1時間後が何時何分になるからそこまでにしよう」などと、大体の時間ではなく具体的な数字を出してみましょう。それも子ども自身に確認してもらうことがポイント
- 終了時刻で決める方法 「何時間」といったような長さを決めるのではなく、「20時まで」などのように終わりの時刻を設定するご家庭もあります
ステップ4:具体的なルール例
時間に関するルール
- 平日:宿題が終わってから1時間
- 休日:午前中1時間、夕方1時間の計2時間
- 終了時刻:平日は19時、休日は20時まで
場所・環境に関するルール
- リビングでのみプレイ
- 食事中・家族の時間中は禁止
- 寝室への持ち込み禁止
条件に関するルール
- 宿題・手伝いが終わってから
- 「お手伝いをしたら10分延長OK」のように、ゲームをご褒美として扱わないこと。ゲームをご褒美にしてしまうと、お手伝いの目的がゲームになってしまいます
ステップ5:ペナルティとフォローアップ
ペナルティも一緒に決めておきましょう。これは、ルールを守るためにも必要なこと。ペナルティも、子ども主体で決めましょう。
効果的なペナルティの例
- 決めた時間を超えた場合は、次の日の時間を削るようにしています。翌日は「約束だから」と削った時間以内で終わらせますが、子ども自身が損をしている気持ちになったようで、それ以降は守るようになりました
- ルールを守らなかった場合、トイレ掃除かお風呂掃除をさせています。最初はやっていましたが、トイレは汚いしお風呂掃除は面倒くさいことがわかったみたいで、時間を守るようになりました
重要な注意点 ペナルティは、必ず実行すること。そのためには、子どもだけでなく親も実現可能であるペナルティを作ることが必要になります。
ルールを守ってもらうための工夫【実践テクニック】
1. 視覚的な工夫
タイマーの活用
- タイマーをかけたり、スマートスピーカーで呼びかけたりなど、保護者が声をかけなくても本人が気づくようなしくみを工夫する
- キッチンタイマーやスマートフォンのアラーム機能を使用
時計の設置
- ゲームをする場所に大きな時計を設置
- 終了時刻を紙に書いて貼っておく
2. 段階的な声かけ
終了時間が来る前から数回声をかけて、時間を教える方法が効果的です。
声かけのタイミング例
- 開始から30分後:「あと30分だね」
- 終了15分前:「あと15分で終了だよ」
- 終了5分前:「もうすぐ時間だから、キリの良いところで終わろう」
3. ポジティブな強化
子どもが制限時間を守れたら「あたりまえ」と思わず、おおいにほめましょう。ルールを守るモチベーションがアップします。
効果的なほめ方
- 「約束を守れてえらいね」
- 「時間を見て自分で終われたね」
- 「ルールを守れる○○くんは素晴らしい」
終了時間で終われたらご褒美を用意することも効果的ですが、ご褒美はゲーム関連以外のものにしましょう。
4. 代替活動の提案
ゲーム以外の楽しみを見つけられるように保護者がサポートしてあげることも有効です。ゲーム以外で楽しめる時間があれば、自然とゲームをする時間がへっていきます。
おすすめの代替活動
- 「金曜日はいっしょに夕飯を作る」「週末は家族でカードゲームをする」など、子どもといっしょに楽しめる時間をつくれば家族のコミュニケーションの時間も増える
- 外遊び・スポーツ
- 読書・工作
- 友達との遊び
年齢別ルール作りのポイント
幼児期(3〜6歳)
特徴
- 時間感覚がまだ未発達
- 親の管理が中心
ルール作りのコツ
- 時計ではなく「この番組が終わったら」などの具体的な目安
- 必ず大人と一緒にプレイ
- 短時間(15〜30分)から始める
小学校低学年(6〜9歳)
特徴
- 時計が読めるようになる
- 友達とのコミュニケーションツールとして使い始める
ルール作りのコツ
- 30分、1時間などの時間単位でルール設定
- タイマーを使った自己管理の練習
- 宿題との優先順位を明確に
小学校高学年(9〜12歳)
特徴
- 小学生であれば、自分で考えて判断する力も付いてきているはず。30分や1時間といった簡単な時間であれば、低学年でも時計の針で理解することができる
- 友達関係でのゲームの重要性が増す
ルール作りのコツ
- より柔軟なルール設定(平日・休日の区別)
- 友達との約束も考慮したスケジューリング
- 自己管理能力の向上を促す
中学生以上(12歳〜)
特徴
- 高い自己管理能力が期待される
- 部活動や勉強との両立が課題
ルール作りのコツ
- 週単位・月単位での時間管理
- 定期テスト期間などの特別ルール
- より対等な話し合いによるルール決定
ルールが守れない時の対処法
まずは原因を探る
ルールが守られなかった場合、なぜ守れないのかなど、まずはお子さんの気持ちを聞きましょう。「ゲームをしないと、友達に仲間はずれにされる」といった、お子さんにとって重大な理由があるかもしれません。
よくある理由と対処法
- 友達との約束
- オンラインで友達と遊ぶ約束をしている
- →事前に友達との約束時間を確認し、家庭のルールも説明
- ゲームのセーブポイント
- キリの良いところまで続けたい
- →事前にセーブのタイミングを確認し、計画的にプレイ
- 時間感覚の未発達
- 時間感覚が育っていない子に、ゲーム時間のルールを守らせるのは難しいことから、記憶がまだ不安定な子は、時間のルールをわざと破っているのではなく、ルールの設定が発達に見合っていない可能性
- →より短い時間からスタートし、段階的に延ばす
感情的にならない対処
お子さまがルールを守れなかったときに、頭ごなしに叱りつけたりゲーム機を取り上げたりしては、親子の信頼関係を損ないかねません。
効果的な対処法
- 冷静に事実を確認
- 理由を聞く
- 一緒に改善策を考える
- 必要に応じてルールの見直し
ペナルティ実行の際には、子ども自身がルールを破ったことを自覚していることが大切です。ママやパパも感情的に怒らずに、「決めたとおり〇〇だね」と冷静にペナルティを実行しましょう。
ルールの見直しタイミング
定期的なルールの見直しも重要です。
見直しの目安
- 月1回程度の家族会議
- 新学期などの節目
- ルール違反が続く場合
- 子どもの成長に合わせて
実際の家庭での成功事例
事例1:小学3年生男子の場合
問題
- 1日3〜4時間ゲーム
- 宿題を後回しにする
- 時間を守れない
解決策
- 子どもと一緒に1週間のゲーム時間を記録
- 「宿題が終わってから1時間」というルール作り
- キッチンタイマーでの自己管理
- 守れた日はカレンダーにシールを貼る
結果 3ヶ月後には自分でタイマーを設定し、時間を守れるように。勉強への取り組みも改善。
事例2:中学1年生女子の場合
問題
- 友達との約束でオンラインゲーム時間が長くなる
- 平日も深夜まで続けてしまう
- 成績の低下
解決策
- 友達との関係性を理解
- 「平日は9時まで、休日は10時まで」のルール
- 友達にも家庭のルールを説明
- 週末は少し融通を利かせる
結果 友達も理解してくれ、お互いの家庭のルールを尊重するように。生活リズムが改善し、成績も回復。
よくある質問と解答
Q1: 友達はもっと長時間ゲームしているのに、なぜ我が家だけ制限するの?
A: 家庭でのルールは保護者が一方的に押しつけるのではなく、お子さまと一緒に話し合い、自主的に守れるものを作りましょう。なぜゲームのしすぎがよくないのか、をきちんと説明できる必要があります。
他の家庭は他の家庭として、我が家の価値観と方針を大切にすることが重要です。その上で、子どもが理解できるように健康や学習への影響について説明しましょう。
Q2: ゲームを完全に禁止した方が良いのでは?
A: 現代社会では、ゲームは友達とのコミュニケーションツールとしても機能しています。ゲームをはじめるタイミングの理想は、年齢というよりも、周りの友達が始めて必要になった時だと思います。ゲームは現代ではコミュニケーションツールのひとつとして機能しているので、コミュニケーションスキルを高めることに役立ちます。
完全禁止よりも、適切なルールの下で楽しむことを教える方が、将来的な自己管理能力の向上につながります。
Q3: ルールを決めても守れない場合はどうしたら良い?
A: ルールが守れないからといって、いきなりペナルティを発動するのはストップ!お子さんがルールを守れるように、お母さんが工夫できることはあります。
まずは以下を確認してみてください:
- ルールが子どもの発達段階に適しているか
- 時間の管理方法は適切か
- 代替活動を提案できているか
- 家族のサポート体制は整っているか
Q4: 平日と休日で時間を変えても良い?
A: はい、平日と休日で異なる時間設定をすることは一般的で効果的です。平日は宿題が終わった後のみ、1時間以内、休日は午前と午後に30分ずつ、計2時間まで。このようにルールを明確にすることで、お互いの期待値を揃えられます。
ただし、子ども自身が理解しやすいシンプルなルールにすることが大切です。
まとめ:健全なゲームライフのために
子どものゲーム時間のルール作りは、単に制限をかけることが目的ではありません。子どもが自己管理能力を身につけ、ゲームと健全に付き合っていけるようになることが最終的な目標です。
成功するルール作りの要点
- 子どもと一緒に決める:人は基本的に自分以外の人に強制されて動くよりも、自発的に動きたいと考えています
- 科学的根拠を参考にする:平日60分、休日90分を基本の目安として、家庭の事情に合わせて調整
- 段階的にアプローチ:急激な変化ではなく、少しずつルールに慣れていく
- 代替活動を提案:ゲーム以外の楽しみを一緒に見つける
- 定期的に見直し:子どもの成長とともにルールも進化させる
最終的な目標
自分で決めたことを守れていると認識できると、子どもは自分自身を認めてあげることができます。自己受容ができていると新しいものに挑戦しやすくなったり、物事を継続し達成する力につながったりします。ゲームをプレイする時間を守れない現状はそういった力を伸ばすチャンスとして捉えることができます。
親子で話し合いながら、お互いが納得できるルールを作り上げ、子どもの健全な成長を支援していきましょう。ゲームとの付き合い方を通じて学ぶ自己管理能力は、将来的に子どもの大きな財産となるはずです。
この記事の内容について、ご質問やご相談がございましたら、お子さんの発達段階や家庭の状況に合わせて、柔軟にアレンジしていただければと思います。何より大切なのは、親子の信頼関係を維持しながら、一緒に成長していくことです。
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