なぜ、「早くしなさい!」は逆効果なのか?

心理

子どもの時間感覚と、行動を促す効果的な声かけ

朝の支度が遅い、宿題にとりかかるまでに時間がかかる、遊びをやめられない…。そんな我が子を見ていると、ついつい「早くしなさい!」と声をかけてしまうことはありませんか?しかし、この一言が実は子どもの成長にとって逆効果になっているかもしれません。

子どもと大人の時間感覚は根本的に違う

脳科学が明かす時間認知の仕組み

子どもの体感時間は大人の6倍の長さとも言われています。これは単なる感覚的な話ではなく、時間の経過をどう感じるかは心理学で「時間評価」の問題といわれ、ヒトには心的時計といえるものがあり、これが実際の時計よりも速く進めば、「まだ1時間しかたっていない」と感じるし、逆に心的時計が遅く進めば「もう1時間過ぎた」と感じるのです。

子どもの時間感覚の発達段階

子どもの時間感覚は、年齢とともに段階的に発達していきます:

1. 時間の概念がない時期(乳幼児期) 幼少期には、時間の概念がほとんどない場合があります。子どもはイベントや活動に対して時間の意識を持たず、自然な流れに身を任せ、その時を楽しんでいます。

2. イベントに基づく時間の捉え方(幼児期後半) 幼児期後半から幼少期初期にかけて、子どもはイベントや活動に対して時間の捉え方を始めます。例えば、学校から帰ってきてから夕食を食べるまでの時間、遊び時間、寝る時間などに対する理解が深まります。

3. 時計に基づく時間の捉え方(学童期) 幼児期後半から学童期にかけて、子どもは時計やカレンダーを使って時間を理解する能力が発達します。時計の読み方や時間の概念(例: 1時間は60分)について学び、時間を区切る能力が向上します。

脳科学から見た「早くしなさい!」の問題点

発達途中の脳への影響

発達障害・グレーゾーンの子どもの脳の発達に凹凸があるから、記憶系のエリアの発達がゆっくりなので時間感覚の発達がゆっくりなことが多いです。時間を意識しながら行動することが苦手なのです。これは発達障害に限った話ではなく、すべての子どもに当てはまる脳の発達特性なのです。

3歳までに極度のストレスを感じると、子どものデリケートな脳は、その苦しみになんとか適応しようとして、自ら変形してしまうのです。つまり、繰り返される急かしの言葉は、子どもの脳の健全な発達を阻害する可能性があるのです。

「言われ慣れ」による悪循環

毎回、「早くしなさい!」「~しなさい!」と言われ続けると、子どもは、言われることに慣れてしまい、言わないと動かない状態を作ってしまう可能性があります。

この現象は、以下のような悪循環を生み出します:

  1. 「早くしなさい」と言われる
  2. 一時的に動くが、根本的な解決にならない
  3. また同じ状況が発生する
  4. さらに強い口調で言われる
  5. 子どもは指示待ち人間になっていく

効果的な声かけ:年齢別アプローチ

幼児期(3-6歳):視覚的サポートが鍵

具体的な時間を伝える 親子の日常会話に、時刻を入れてみてください。「7時になったから起きようね」「3時だからおやつの時間だね」「チャイムが鳴ったから5時だよ」など、意識して取り入れることで、段々と時間を意識できるようになります。

「やることリスト」の活用 大きめの付箋や、マグネットシートなどにイラストや文字をかいて「やること」の列に貼っておき、終わったら「やったこと」移動するのがおすすめです。

重要なのは、リストアップするときに大事なことは、子どもと一緒に行うこと。親が決めてしまうと、子どもは「やらされている」と感じます。自分で考えて決めることで、やりたくなるのです。

学童期(6-12歳):時間感覚を育てる

行動記録をつけてサポート まずは、子どもの行動記録をつけること。学習の内容ごとにどのくらい時間がかかっているかを把握し、「そろそろ30分経ったから、休憩を入れたら?」など、日頃から子どもの行動を時間と結びつけるような声がけをしてあげましょう。

見通しを持たせる声かけ 時間の感覚が身についてきたら、「今日の宿題は漢字プリント1枚だから、30分もあればできるね」と見通しをもたせるような声がけをしてあげましょう。

自己決定を促す質問 せかしたり、指示するのではなく、「○○をするのは、何時から?」「○時だよ。時間は大丈夫?」などと、自分で先のことを考えられるような声かけをするとよいでしょう。

効果的な声かけの5つの原則

1. 感情的にならず、理由を伝える

怒られてばかりでは、子どもの自己肯定感は上がりません。感情的にはならず、いけないこととその理由が伝わるように話しましょう。

例:

  • ❌「早くしなさい!」
  • ⭕「8時に家を出ないと、電車に間に合わないよ」

2. 具体的な時間とメリットを示す

「幼稚園でたくさん遊べるように、準備を少しずつ早くできるようにしよう」などメリットを伝えることで、納得して準備を早くできるように、サポートをしてあげましょう。

例:

  • ❌「片付けしなさい!」
  • ⭕「10分で片付けが終われば、好きなテレビ番組が見られるね」

3. 目を見て、表情豊かに伝える

子どもに何かを伝えるときは、必ず目を見て話しかけましょう。褒めたり、一緒に喜んだりするときは笑顔を浮かべて、感情を伝えることも大切です。

4. 子どもの気持ちに共感する

問題行動の背景にある子どもの気持ちを理解し、まずは共感を示すことが大切です。

例:

  • ❌「いつまで遊んでるの!」
  • ⭕「楽しいから続けたいんだね。でも時間だから、一度区切りをつけようか」

5. 成功体験を積み重ねる

幼児にとって短時間での達成は達成感を感じやすく、自信を持つきっかけとなります。これにより、時間を守ることの楽しさを体験させることができます。

小さな目標から始めて、できたときは必ず認めてあげましょう。

時間管理力を育てる具体的なステップ

ステップ1:「時間を意識する」から始める

まずは時間という概念を身近なものにします:

  • 時計の見方を一緒に覚える
  • 「長い針が6になったら出かけるよ」など具体的な表現を使う
  • タイマーを活用して時間の区切りを体感させる

ステップ2:「○○の時間」で区切る生活

「○○の時間」と区切って行動することで、けじめのある生活になります。

  • 「準備の時間」「遊びの時間」「勉強の時間」
  • 時間の切り替えを分かりやすくする
  • 次の活動への予告をする

ステップ3:段取り力を身につける

家のお手伝いで段取りのしかたを学ぶことが効果的です。

  • 料理の手伝いで順序を覚える
  • 片付けで効率の良い方法を考える
  • 明日の準備を一緒にする

ステップ4:自分で計画を立てる

「時間管理」とは、「自分の行動管理」であることに気づかせましょう。時間は止めることも速く進ませることもできません。時間内にすべきことができる、決められた時刻に行動できる、そこがポイントです。

注意すべきNGな声かけパターン

1. 感情的な叱責

「何度言ったらわかるの!」「いい加減にして!」

2. 比較による圧力

「○○ちゃんはもうできてるよ」「お兄ちゃんのときは…」

3. 脅迫的な表現

「遅刻したらどうするの!」「もう知らない!」

4. 人格否定

「ダメな子ね」「のろまさん」

これらの声かけは、子どもの自己肯定感を下げ、時間管理能力の向上を阻害します。

親も一緒に成長する時間管理

親自身の時間管理を見直す

子どもは親の背中を見て育ちます。まずは親自身が:

  • 余裕を持ったスケジュールを組む
  • 時間に追われる生活を見直す
  • 子どもの前で時間を意識した行動を見せる

子どもの成長ペースを尊重する

一度できたからといって、次から絶対にできるわけでもありません。後退してしまうこともあるでしょう。でも、あきらめないでくださいね。時間管理力は将来のために磨いていくものです。

少しずつ、少しずつ、段々と経験を積んで、子どもたちはできるようになっていきます。

発達段階に応じた期待値の調整

幼児期(3-6歳)

  • 10-15分程度の短時間での活動から始める
  • 視覚的なサポート(絵カード、タイマーなど)を活用
  • 成功体験を重視し、できたことを大いに褒める

学童期前半(6-9歳)

  • 30分程度の時間管理ができることを目指す
  • 自分で時計を見る習慣をつける
  • 「なぜその時間なのか」理由を説明できるようにサポート

学童期後半(9-12歳)

  • 1時間以上の長期的な計画が立てられるようになる
  • 自分で優先順位をつけられるようサポート
  • 時間管理の失敗から学ぶ機会を提供

まとめ:信頼関係が時間管理の土台

時間管理能力は一朝一夕に身につくものではありません。子どもが時間を考えて行動するためには、『子どもの時間はその子自身のもの』と親が認識することから始まります。

「早くしなさい!」という言葉の代わりに:

  1. 具体的な情報を提供する:「8時15分になったよ」
  2. 選択肢を与える:「先に歯磨きする?それとも着替える?」
  3. 見通しを示す:「あと5分でお片付けの時間だよ」
  4. 共感を示す:「まだ遊びたいんだね」
  5. 成功を認める:「時間通りにできたね!」

このような声かけを通じて、子どもは自然と時間を意識し、自分で行動できるようになっていきます。

最も大切なのは、親子の信頼関係です。突き放すのではなく「あなたが困るから頑張ろう」と励ますスタンスでいたいものです。

子どもの時間感覚の発達を理解し、適切なサポートをすることで、きっと自主的に行動できる子どもに育っていくはずです。今日から「早くしなさい!」を「あと○分だよ」に変えてみませんか?


※この記事は、脳科学・発達心理学の研究に基づいた内容ですが、個々の子どもの発達には個人差があります。お子さんの様子を見ながら、適切なアプローチを見つけていってください。

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