「好きなことを仕事に」は本当に幸せか?キャリアの専門家と考えた結果

進路

「好きなことを仕事にしよう」—就職や転職の際によく聞くアドバイスですが、これは本当に幸せへの近道なのでしょうか?実は最新の研究では、予想外の結果が明らかになっています。今回は、4021の研究データとキャリア専門家の見解をもとに、この定説に迫ります。

要点まとめ

  • 「好きなことを仕事に」派の幸福度は最初だけ高く、長期的には「成長派」が上回る
  • 好きなことを仕事にできている人は全体の約3割だが、8割以上が満足している
  • 「割り切り派」の方が仕事の継続率とスキル向上が高いという研究結果も
  • 重要なのは「何が好きか」ではなく「どんな働き方が自分に合うか」
  • 内発的動機を育てることが長期的な幸福につながる

衝撃の研究結果:「好き」を仕事にしても幸せは続かない?

ミシガン州立大学の大規模調査が示した真実

2015年、ミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を実施しました。数百を超える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するかを調べたこの研究で、驚くべき結果が明らかになりました。

研究チームは被験者の「仕事観」を2つのパターンに分類しました:

◆適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。「給料が安くても満足できる仕事をしたい」と答える傾向が強い

◆成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ。「そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料は欲しい」と答える傾向が強い

意外な結果:成長派の方が長期的に幸せ

一見すると適合派の方が幸せになれそうに思えますが、結果は意外なものでした。

適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは成長派のほうが高かったのです。

なぜ「好き」が裏目に出るのか?

適合派は自分が情熱を持てる職を探すのがうまいが、実際にはどんな仕事も好きになれない面がある。いかに好きな仕事だろうが、現実には、経費の精算や対人トラブルといった大量の面倒が起きるのは当然のことです。

好きなことを仕事にしていた人ほど、「本当はこの仕事が好きではないのかもしれない…」や「本当はこの仕事に向いていないのかもしれない…」との疑念にとりつかれ、モチベーションが大きく上下するようになります。


オックスフォード大学の研究:「割り切り派」が最も優秀

動物保護施設での調査結果

オックスフォード大学による北米の動物保護施設で働く男女にインタビューを行った調査では、研究チームは被験者の働きぶりをもとに3つのグループに分けました:

  • 好きを仕事に派:「自分はこの仕事が大好きだ!」と感じながら仕事に取り組むタイプ
  • 情熱派:「この仕事で社会に貢献するのだ!」と思いながら仕事に取り組むタイプ
  • 割り切り派:「仕事は仕事」と割り切って日々の業務に取り組むタイプ

驚きの結果:割り切り派が最優秀

全員のスキルと仕事の継続率を確かめたところ、もっとも優秀だったのは「割り切り派」でした。一見すれば情熱を持って仕事に取り組むほうがよさそうに思えますが、実際には「仕事は仕事」と割り切ったほうが作業の上達が速く、すぐに仕事を辞めない傾向があったわけです。


現実のデータ:好きを仕事にしている人の実態

好きなことを仕事にしている人の割合

ニュースサイトSirabeeの調査によると、「好きなことを仕事にしている」と回答した人は全体の28.4%でした(全国10〜60代の男女1,501名を対象に調査)。

つまり、約4人に1人程度しか好きなことを仕事にしている人はいないということです。

満足度は高い

一方で、好きなことを仕事にした人たちが、良かったと感じているか、後悔しているのかを調査した結果(キャリズムが100人を対象に調査)によると、「よかったと思っている」と回答した人が83%、「後悔している」と回答した人が17%となっており、8割以上の人が好きなことを仕事にして良かったと感じています。

日本人の仕事への熱意の現実

日本経済新聞「『熱意ある社員』6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査」によると、会社で働く人のうち、「熱意あふれる社員」の割合が、日本はわずか6%と、139カ国の調査国のうちほぼ最下位に近いレベルの少なさです。また「やる気のない社員」も70%という結果となっています。


キャリア専門家の見解:正しい適職の見つけ方

『科学的な適職』著者・鈴木祐さんの提言

サイエンスライターで『科学的な適職〜4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方〜』を執筆した鈴木祐さんは「無理やり好きなことを仕事にしようと焦らなくても大丈夫」と、過去に読んだ10万本の科学論文のデータをもとに励まします。

鈴木さんにとって適職とは「自分の幸福が最大化される仕事」だと考えています。仕事の悩みの根っこには「幸せに暮らしたい」という欲望があるのに、好きなことをした結果、不幸になってしまったらどうしようもないからです。

重要な3つの要素

研究によって最も人間のモチベーションを駆動させる3要素は「自由(自分の労働をコントロールできている実感)」「達成(自分のスキルが向上している実感)」「仲間(組織内に助けてくれる人がいるか)」であることがわかっています。

キャリアカウンセラーの役割

キャリアカウンセラーは、相談者との対話を通して、個人にとって望ましいキャリアの選択・開発を支援するキャリア形成の専門家です。就職・転職についての悩みはもちろんのこと、職場での人間関係、将来に対する漠然とした不安、もう少し自分らしく過ごしたい、子育て・介護・治療と仕事の両立等、日常の中のさまざまなモヤモヤについてのお話を伺います。


心理学から見る:内発的動機と外発的動機

内発的動機とは何か

内発的動機づけとは、物事に対する強い興味や探求心など「人の内面的な要因によって生まれる」動機づけのことです。内発的動機は、仕事に対する興味や関心、そこから生まれるやりがいや達成感などといった自分自身の内からなる動機により行動に結びつきます。

外発的動機との違い

外発的動機づけとは、報酬や評価、罰則や懲罰といった「外部からの働きかけによる動機付け」です。外発的動機づけにおいては、実施方法が「報酬を与える」「罰を与える」などシンプルで分かりやすいため、強い関心や興味がない人のモチベーション向上には有効に働き、短期間で効果が表れやすいです。

持続性の違い

外発的動機は短期的な効果は見込めるが持続性は期待できない。一方で、内発的動機は短期的に変化を促すのは難しいが、持続性があり、効果も外発的に比べて高いという違いがあります。


「好きなことを仕事に」の落とし穴と対策

よくある失敗パターン

  1. 理想と現実のギャップ 好きなことを仕事にできたとしても、周りと比較して「違い」を感じると、自信を失ってしまう可能性があります
  2. プライベートとの境界線が曖昧に 好きなことを仕事にしている状態だとプライベートとプライベートの区別が曖昧になってしまい、仕事のメリハリがなくなってしまうリスクがあります
  3. スキル不足への焦り 社会に出ると、自分よりも高い技術を持っている人にもたくさん出会うことになります。そうなると、自分とのレベルの違いを目の当たりにしてコンプレックスを感じてしまうことはよくあります

成功するためのアプローチ

1. 「名詞」ではなく「動詞」で考える

好きなことを探すときは「名詞」ではなく「動詞」で探すことが重要です。例えば、「サッカーが好き」という人の場合、「サッカー」という名詞にフォーカスしてしまうと、選択肢がかなり絞られてしまいます。そのため、「サッカーの戦略を考えるのが好き」「サッカーを見るのが好き」というように、どのような「動詞」が好きなのかにフォーカスして考えることが大切です。

2. 段階的なアプローチ

最初から「好きなこと」にこだわらず:

  • まず外発的動機(給与、安定性など)で仕事を選ぶ
  • 実際に取り組む中で面白さを発見する
  • 小さな成功体験を積み重ねる
  • 内発的動機を育てていく

3. 継続的な自己分析

適性検査や1on1ミーティング、キャリア面談を通じて「自分は何にやりがいを感じるのか」「仕事に対する価値観はどのようなものか」という点を把握してもらうとよいでしょう。


現代の働き方における新しい視点

多様な働き方の時代

現代では働き方が多様化し、一つの会社で定年まで働くという概念も変わりつつあります。そんな中で重要なのは:

  • 転職可能性:スキルと経験の蓄積
  • ポータブルスキル:どこでも通用する能力
  • ライフワークバランス:人生全体での幸福度

キャリア専門家が推奨する考え方

  1. 継続的学習:キャリアコンサルタント国家資格には5年ごとの更新が義務付けられているなど、生涯学習が基本。自分が成長できることをよろこびに感じ、スキルアップに意欲的な人もこの仕事に向いている
  2. 客観的視点:相談者の希望に沿うよう支援することはもちろん大切ですが、相談者自身が気づいていない適性や興味を掘り起こし、将来展望を考慮しながらキャリアのプロとしてアドバイスする客観的な視点も不可欠
  3. 経験の蓄積:「やりたくない仕事にどう向き合ったか」「これをきっかけに状況が好転した」といった悩んだ経験や成功体験、「好きな人と結ばれた・別れた」などたくさんの人生ドラマがあるほうがさまざまな状況にある相談者の懐に入り、深い話ができる

まとめ:幸せな働き方を見つけるために

研究が示す新常識

  1. 「好き」だけでは長続きしない:理想と現実のギャップが大きすぎると、かえって不幸になる可能性がある
  2. 「成長」と「割り切り」の価値:継続的な成長と適度な距離感が、長期的な満足度を高める
  3. 内発的動機の重要性:外部からの報酬より、自分の内面からの動機が持続的な幸福をもたらす

実践的なアドバイス

すぐに始められること

  • 現在の仕事で「なぜそれをするのか」という意味を考える
  • 小さな成長や達成感を意識的に見つける
  • 職場での人間関係を大切にする

中長期的に取り組むこと

  • 自分の価値観を定期的に見直す
  • スキルアップを継続する
  • キャリアの選択肢を広く持つ

最後に:天職は「見つける」より「育てる」もの

「真の天職は『なんとなくやってたら楽しくなってきた』から見つかる」という研究結果が示すように、天職は最初から存在するものではなく、経験と成長の中で育っていくものです。

「好きなことを仕事にしよう」という言葉に惑わされず、自分にとっての幸福が最大化される働き方を、じっくりと見つけていきましょう。それが、真に豊かなキャリアへの第一歩なのです。


参考文献

  • ミシガン州立大学「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」調査(2015年)
  • オックスフォード大学 動物保護施設調査
  • 鈴木祐『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』
  • 日本キャリア開発協会(JCDA)

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